「振り返り」と「感想」は違う

誰だって、ミスや失敗は繰り返したくありません。

「何度同じ事を言わせるの!?」

「やっぱり君には無理かな」

とは言われたくない。

一方で、うまく出来たことは繰り返したい。

「前回は良かったのに…」

「あれって、まぐれだったの?」

と言われるのもごめんです。

どうしてミスを繰り返してしまうのか。うまく出来たことを繰り返すことができないのか。その理由の多くが仕事の「振り返り方」にあります。

初めに知っておいてほしいのは、振り返りは「感想」とは別のものだということです。「面白かったなあ」「苦労したけれど、自分なりに頑張ったと思う」「次は自分で企画もやってみたい」…これらは全てあなたの感想です。

仕事の振り返りとは、終えた仕事(または途中まで進めた仕事)の出来映え・やり方の良し悪しを明らかにすることです。それによって、次に同じような仕事を行った時に同じミスを繰り返すことを防ぎます。あるいは、一度成功したことを再現できる確率を高めます。

振り返りは仕事の大小を問わず意識的に行わないといけません。日常の小さな仕事の振り返りができない人は、大きな仕事の振り返りもできません。これから振り返りのやり方について詳しく考えていきますが、まずはいくつかの基本的なポイントを紹介します。

できたことも、できなかったことも、両方振り返る

失敗した時は「あれをすべきだった、これもすべきだった」と大いに反省するのに、うまくできた時は「やったね、さあ次へ行こう!」と全く振り返りをしない人がいます。これでは、せっかくうまくできた事を繰り返すことができません。

仕事の振り返りは、うまくできた/できなかったに関わらず行うべきものです。たいていの仕事は、うまくできた事とできなかった事の両方が混じっています。一方だけに目を向けたままにしていると、多くのことを見落とすことになります。

内的要因と外的要因の両方に目を向ける

仕事において「なぜこうなったのか?」という原因を考えるとき、大きく分けると2通りの考え方があります。1つは内的要因といい、原因が自分自身(行動や能力、知識、感情など)にあると考えます。もう1つは外的要因といい、原因が自分以外(他者、環境、制度、条件など)にあると考えます。そして一般的に以下のような傾向があります。

・自分が成功したとき → 内的要因に偏りがち(私に◯◯の能力があったから)

・自分が失敗したとき → 外的要因に偏りがち(私の担当業界は不景気だ)

・他人が成功したとき → 外的要因に偏りがち(あの人の担当業界は景気がいい)

・他人が失敗したとき → 内的要因(あの人には◯◯の能力が不足していた)

原因を考える時は、内的要因と外的要因の「どちらにあるかを決める」のではなく、両方の視点で考えてみることが大切です。

「先輩から今月中に仕事を引き継ぐ」という指示を受けたのに、それを守ることができなかった人がいました。本人は「先輩が担当している別のプロジェクトが急に忙しくなり、会話をする時間をほとんどとってくれなかった」と言いました。

先輩の仕事は本人がコントロールできないこと(外的要因)ですから仕方がありません。しかし、もしそれを「できない理由」として決めつけ、自分から何の働きかけも行わなかった(内的要因)としたら、全てを先輩のせいにして文句を言うのは無責任です。

まずはゴールイメージ

仕事の大きさや難易度に関わらず、そもそもゴールイメージを明確にしておかなければ、何かに「気づく」ことはできません。お客様からの電話相談を毎日何件も受け付ける「サポートセンター」の相談スタッフを例に挙げます。

あるスタッフは、「1分1秒でも早くトラブルを解決すること」が良い仕事だと思っています。仕事の中で気づいた事は何ですか? と聞くと、「もっと早く故障箇所を探り当てるために、質問の引き出しを増やさないといけない」「初めに◯◯を伝えておくと、スムーズに解決できることがわかった」などと答えました。

別のスタッフは「お客様に共感を示し、ストレスを和らげること」が良い仕事だと思っています。同じように気づいたことを聞いてみると、「ただ申し訳ないと言うだけでは相手の怒りはおさまらない」「きっと◯◯にお困りなのではという言い方をすると、緊張感が…」というようなことを話してくれました。

どちらが正しいかではありません。

「良い仕事」の定義が違えば、気づくことも違うということです。

もし、さらに別のスタッフが「早く解決すること」と「お客様のストレスを和らげること」の両方を実現することが自分に任せられた役目だと思っているとしたら? おそらく得られる気づきの量はもっと増えるでしょう。それに加えて「早期解決とストレス対処を両立させることの難しさ」のような、新たな気づきも得られるでしょう。

「常に問題意識を高く持ち、色々な事に気づいていかないと成長しない」

というのは確かにその通りなのですが、問題意識の「問題」とは「現状」と「目標」の差のことであり、「目標」とはゴールイメージのことです。そもそも目標が無かったら現状との差を比較することができませんから、何かに気づくことは不可能です。

今あなたが行っている仕事のゴールイメージは何ですか。

もし不明確であれば、もう一度発注者とすり合わせをしてください。

経験を言語化する

せっかく気づいた事を忘れずに自覚するためにはどうするか?ある会社で、新規受注を獲得した2人の営業担当者に「受注の決め手は何でしたか?」と質問をすると次のような答えが返ってきました。

(Aさん)「我が社のサービスの良さを信頼してもらえるように、とにかく頑張りました。先方にその熱意が伝わったのだと思いますね」

(Bさん)「決め手は1回目のプレゼン後の対応でした。プレゼンに参加した先方の部長が浮かない顔をされていたので、思い切って担当者に聞いてみたところ、過去に似たようなサービスを導入しようとして現場から大反発を受け、失敗した経験があるとわかりました。そこで担当者と一緒に現場への展開プランを作って最終提案に盛り込んだことで、最終的に部長から高い評価をいただくことができました」

Bさんのほうが、自分の経験を詳しく言葉にできています。同じ状況が訪れたら成功を繰り返す確率がAさんより高そうにみえます。

仕事で優れた成果を出し続ける人・成長のスピードが早い人は、経験の言語化に優れています。ある企業では、実際に社員を対象に調査を行ったところ、業績の高い人ほど自分の経験について詳しく説明できるという結果が得られたそうです。

「私は記憶力がないから、言語化なんて無理です」と思う人がいるかもしれませんが、逆に、言語化をすることによって自覚が強化されると考えてみてはいかがでしょう。

話しているうちに思い出すことはたくさんありますし、「ああ自分はこれが一番言いたかったのか」と、言語化する過程の中で気づくということもあります。それに、そもそも記憶力に頼る必要は無くて、忘れる前に書き出しておけばいいのです。メモが残っていれば後からいくらでも活用できます。

実は、経験を言語化するときの観点や枠組みについては昔から研究されており、いくつかの考え方があります。本書ではその中でも比較的シンプルで、使いやすいものを紹介します。

・本ページは、書籍「詳解 仕事の進め方 」の内容の一部を限定公開しているページです。他の公開中のトピックは「目次」から確認してください。

詳解 仕事の進め方
“ちゃんと”だけではわからない「準備」「実行」「振り返り」
A5判 133ページ ¥1,650(税別)