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「主体性が足りない」と言う前に

「部下が言われたことしかやらない」
「主体性が足りない」

そんな不満を聞くたびに、いつも思うことがあります。
それ、事前にちゃんと伝えていましたか。

ある企業の人事役員が、こんなことを話していました。

若手層にありがちな、
「私の担当業務はしっかりやっている」という考え方は危険だ。
木を見て森を見ず、ではいけない。
担当業務が、部門や他職能とどうつながり、
最終的な受益者が誰かを踏まえて、やり方を工夫してほしい。

言っていることは、もっともです。
でも、私は少し意地悪なことを考えてしまいました。

担当業務をしっかりやっているなら、それでいいじゃないか。

もし本当に、

・全体を見て考えてほしい
・状況の変化に合わせてやり方を変えてほしい
・改善や工夫も含めて期待している

のであれば、
それも含めて「君の役割だ」と伝える必要があります。

「最近、社外や他部署からの要求も変わってきているよね。
だから、必要なら部署のやり方を見直したり、新しいやり方を試したりすることも、
君の役割に含まれていると思ってね」

これすら伝えずに、
後から「主体性がない」「言われたことしかやらない」と言っても、
それは後出しジャンケンです。


期待役割を届けずに放置すると、何が起きるでしょうか。

・上司は、何度も同じ不満を感じる
・部下は「聞いていない」という感覚を強めていく
・お互いに、慎重で消極的なやり取りが増えていく
・認識がそろわず、確認、手戻り、小言、「私はこうだと思った」が増えていく

この状態で「主体性を高めるための自己分析とアクションプラン」みたいな研修をやったら、それはもう、ほとんど罰ゲームです。

部下が動かないとき、
上司はつい、こう考えてしまいがちです。

・何も考えていないのではないか
・自分から動きたくないのではないか

でも、別の可能性もあります。

・出しゃばってはいけないと、遠慮しているのかもしれない
・余計なことをして怒られるのが怖いのかもしれない
・「そこまでは自分の仕事ではない」と思っているだけかもしれない

つまり、動かない理由が
性格や意欲ではなく、役割の認識にあることは、とても多いのです。

期待役割をきちんと言葉にしていれば、良いことがあります。
自分から一歩踏み出してくれたときに、
「今の状況を見て、そこまでチャレンジしてくれてありがとう」
と、具体的に感謝を伝えられる。
これは、次の行動を後押しする、いちばん強いメッセージです。

逆に、やらなかったときも同じです。
「主体性が足りない」と言う代わりに、
「前に伝えた役割の話だけど、今回はそこまで踏み込んでもらえたら、もっと助かった」
と、後出しジャンケンではない形で、静かに指摘できる。
感情論にも、精神論にもなりません。


これは「主体性」に限った話ではありません。
相手が、期待どおりに動いてくれないと不満に思ったとき、
その期待は、事前にきちんと言葉にされていたでしょうか。