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「推進」の一人歩き

研修の場で、職場の課題や目標について話すときに、「DX推進」や「事業変革の推進」という言葉をよく耳にします。前向きで、勢いのある言葉です。

さて、「推進してください」と言われたとき、
私たちは本当に同じものを思い浮かべているのでしょうか。

よくあるのは、
「よくわからないけれど、とにかく何か始めなきゃいけない」という状態です。

とりあえずAIツールを入れてみる。
説明会も開く。
導入した事実は残る。
でも、しばらくすると、誰も使っていない。
使われていない理由も、はっきりしないままです。

あとになって、
「この程度で、推進できたとは言えないよねえ」
と言われて、腹が立つ。
では、どこまで行けば「推進できた」と言えたのでしょうか。

別の場面では、こんなこともあります。
ある若手社員が、新しい仕事のやり方を試してみました。
結果は、正直に言えば失敗です。

けれど、その過程で、うまくいかなかった理由や、次に活かせる教訓をつかみました。
本人にとっても、チームにとっても、意味のある経験だったはずです。

ところが評価の場では、
「惜しいけれど、推進という観点からはちょっと外れている」
という理由で、ほとんど取り上げられませんでした。

挑戦したこと自体が、推進とは見なされなかった。
このあと、この若手社員のやる気がどうなるかは、想像に難くありません。

こうしたすれ違いが起きる背景には、「推進」という言葉が、あまりにも便利で、あまりにも中身を含んでいない、という事情があります。

今期は、どんな状態になったら「推進」と言えるのか。
来期になると、「推進」の意味合いは変わるのか。
営業部門と生産部門では、「推進」の捉え方はどれくらい違うのか。

こうしたことを、最初に話す機会がないまま、
「あれをやる」「これをやる」という手段の話だけが進んでいく。

その結果、
努力の方向が少しずつずれ、
あとから評価だけが食い違っていきます。

もし、最初にこんな会話ができていたらどうでしょう。

「うちの部署では、今期の“推進”って、こういう状態を指しているよね」
「このラインを超えたら、推進できたと言おう」
「現場の反応を見て、半年後にあらためて”推進とは何か”を見直してみよう」

そう示されていれば、
部下は「じゃあ、こうしてみては?」とアイデアを出しやすくなります。
失敗も、次につながる材料として扱われやすくなります。

そして、おそらく「推進」だけじゃないですよね。
あなたの職場では、どんな単語が一人歩きしていますか。